北岡省三(漆芸家)Shozo Kitaoka
独自の表現として、漆を重ね塗りする際、叩き塗りをして従来の彫漆ではなかった点描表現でのやわらかいグラデーションを施しています。
斬新な造形(乾漆)に彫漆、蒟醤、蒔絵など、様々な表現で、新しい風を感じさせる作品を生み出し続けています。
この記事の目次
プロフィール
日本工芸会正会員 | |
(公社)日本工芸会四国支部参与 | |
日本文化財漆協会参事 | |
香川県漆芸研究所工芸指導員 | |
香川県美術家協会名誉会長 | |
讃岐漆芸美術館館長 | |
香川県無形文化財保持者 |
1949 | 香川県高松市生まれ |
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1968 | 香川県立高松工芸高校 漆芸科卒業 |
漆芸家 今雪哲郎に師事 | |
1969 | 人間国宝 音丸耕堂に師事 |
1972 | 日本工芸会正会員 認定 |
1975 | 第19回 日本伝統工芸展 初入選 以後入選多数 |
1985 | 日本工芸会四国支部展 監査委員 特待出品 |
1991 | 香川県美術展覧会 審査委員 特待出品 |
1996 | 第13回日本伝統漆芸展 鑑査員 特待出品 |
現代の美 虹色の漆展 招待出品(ニューヨーク・デンバー) | |
1999 | 日本の工芸「今」100選展 招待出品(パリ・東京他) |
2000 | 日本現代漆芸展 招待出品(オランダ) |
2001 | 香川県無形文化財保持者に指定される |
2019 | 旭日双光章 受章 |
彫漆色紙箱「精彩」の部分拡大
受賞歴
1981 | 日本工芸会四国支部展 日本工芸会賞受賞(他計9回受賞) |
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1988 | 香川県美術展覧会 香川県知事賞受賞(他計10回受賞) |
1991 | 第8回日本伝統漆芸展 東京都教育委員会賞受賞 |
1992 | 第9回日本伝統漆芸展 日本工芸会賞受賞 |
1995 | 第12回日本伝統漆芸展 朝日新聞社賞受賞 |
第43回日本伝統工芸展 日本工芸会奨励賞受賞 | |
1996 | 高松市文化奨励賞受賞 |
2006 | 香川県教育文化功労者 受賞 |
2010 | 香川県文化功労者 受賞 |
2016 | 地域文化功労者文部科学大臣表彰 受賞 |
2019 | 第36回日本伝統漆芸展 朝日新聞社賞受賞 |
私と北岡省三先生
香川県漆芸研究所を卒業後、約4年間、北岡省三先生に弟子入りしました。その頃、先生は香川県漆芸研究所において常勤で指導されていたので、夜間や休日に作品を制作されており、その様子を間近で見る事が出来ました。
公募展以外にもグループ展や個展など、様々な発表の場があり、伝統的なものから現代的なものまで幅広い作品を制作され続けています。
先生のほとんどの作品の素地は乾漆です。オブジェ的な作品、皿、箱など様々な形状がありますが、脚の制作や蓋と箱の合わせ方など、細部の処理は形によって、多くのバリエーションがあります。先生自身が工夫し、確立された方法も多く、私はそこで乾漆について様々な事を学び、また無限の可能性を感じました。
彫漆においては、デザインや基本的な技術は自己研鑽し、成長していかなければいけませんが、各工程で、このレベルまで完璧に仕上げなければいけないという指標を知れた事は貴重な経験でした。
常時、2~3人の弟子はいましたが、弟子以外にも漆芸作品を制作する社会人の方、陶芸家の方など、工芸に携わる様々な方が、頻繁に作品やデザインの図案を持参して、アドバイスを受けに来られていました。お忙しい中、誰に対しても快く指導されていたのが印象に残っています。
また、快活なお人柄は多くの人に愛され、先生の周りはいつも明るい雰囲気が漂っています。
多くの作品を生み出しながら、後進の指導、育成等に多大な貢献をされた事は特筆すべき功績です。
作品の客観的な評価はプロフィールや受賞歴で確認できますが、詳しく解説された専門家による寄稿文もここで紹介したいと思います。
専門家による寄稿文
北岡省三芸術の新しい意義
金沢美術工芸大学大学院専任教授
輪島漆芸美術館長
柳橋 眞
北岡省三の近年の飛躍は目覚ましい。器も大きくなり、色漆の表現にも新技法が見られる。漆器産地の大半は黒地に金彩の文様を基調とする。過去の漆芸史を見ても同様といえよう。しかし北岡氏の活躍する高松漆器は赤・黄・緑をはじめとした華麗な色彩表現を特色とする異例な産地である。そこから生まれた大作家の磯井如真、音丸耕堂らも、それぞれ個性豊かな色彩表現で高い評価を得ている。北岡氏も、そうした歴史的な風土の中で研鑽を重ね、たいへん厳しいことだが、新世代の作家として新しい色彩表現が期待されるわけである。
芸術創造の鉄則だが、「新しい酒は新しい革袋へ入れよ」である。 同じ技法で、意匠のみ新しいものを求めても、磯井、音丸らの巨人のきずいた高い壁を乗りこえられるものではない。事実、多くの若い作家が悩み苦しんで、壁に頭を叩きつけている。
特に彫漆の音丸先生は絵の具同様にあらゆる色彩が可能の近代色漆を駆使して、複雑な色彩表現を開拓した。もう新しい手はないではないかと嘆息せざるを得ないほどである。
しかし、北岡省三は新しい革袋を見出した。音丸先生のみならず、何千年の漆芸史の中で漆は刷毛で平らに塗り重ねてきた。それ以外の方法など何人も想像だにしなかった。
北岡氏はスポンジとか布を丸めて塗り面を叩き、凹凸をつくりながら塗り重ねた。凹凸を細かくすれば、うっとりするほど柔らかく色調が移り変わる。凹凸を荒くすれば、砂利をふんで行進するようにリズミックな色調の変化となる。種を明かせばコロンブスの卵で、誰しもうなってしまう。
ここに来るまで北岡氏はいろいろ苦労を重ねてきた。蒔絵の田口善国にも師事したが、亡き師は北岡氏の新技法について、「これは彫漆の点描表現だね」と評したという。まさに色漆の塗り面をいったん点状に還元してしまうことで表現能力を爆発的に増加させるということは磯井正美、太田儔の現代蒟醤の表現の本質とまったく同じである。
色調の微細な変幻、素朴にいえば極限の「ぼかし」を徹底的に追求する一方、使用する色数は単純となり、モノトーンの表現となる。今後、北岡芸術の内容はますます深められ、精神の機微を表現するものとなろう。
今回の展示ではこの「叩き塗り重ね」の作品を中心として、従来の彫漆、更に蒟醤、存清、蒔絵、乾漆と北岡省三の今迄の制作の精進を示す作品が八十点を越して展示される。漆芸でこの数量をそろえるには、数年に及ぶ苦闘が必要である。さぞ、気迫にみちた会場となることと期待する次第である。
平成19年1月 北岡省三漆芸展 図録より
東京展
会期:2007年1月16日(火)~22日(月)
会場:日本橋三越本店本館6階美術特選画廊
高松展
会期:2007年2月6日(火)~12日(月)
会場:高松三越本館5階美術画廊
彫漆箱「早春譜」の部分拡大
新たな美を目指す北岡省三の「彫漆」
東京国立近代美術館工芸課長
唐澤昌宏
高松に生まれ育った北岡省三さんにとっての「彫漆」は、長年にわたり見続けてきた身近な漆芸の一つであるとともに、この道に入ってからは、自分自身を表現できる技法ともなっている。
その彫漆では、色漆を何十回も塗り重ねて層を作り、それに彫刻を施して立体と平面が織りなす模様を浮かび上がらせる。したがって、色漆の組み合わせと彫りの度合いを前もって計算しておかないと思い通りの模様を生み出すことはできない。この計算が個性を際立たせ、北岡さんの想いを伝えるのである。
近年の北岡さんは、彫漆の技法のプロセスに 「叩き塗り」という一工夫した塗り方を積極的に取り入れている。 そもそも彫漆は、色漆を刷毛で平らに塗り重ねながら漆の層を作り、それをあらかじめ決めておいた模様に彫り出すことで、色漆の層があたかも木目のように現れる。ところが北岡さんが考案した叩き塗りは、塗り面をスポンジや丸めた布で叩き、凹凸を作りながら色漆を塗り重ねていくため、点描をしたかのように色漆が絡み合って、ほどよい「ぼかし」効果が生まれる。要するに、色漆のグラデーションに柔らかさと、いい意味でのファジーさが加えられている。それはまた、彫漆に新たな様式美を確立しようとしているようにも見えるのである。
今回の個展では、「叩き塗り」で得られたその効果を、器形の造形にも取り入れようという。その一つが、これまでにありそうでなかった口縁部の輪花による表現である。従来の木目のような色漆の変化では、彫りで輪花の柔らかさが作り出せたとしても、色調までは難しい。それが点描により得られたスムーズで柔らかなグラデーションであれば、それら両方による表現が可能となり、より意図した造形が生み出せるのである。
このような、素材と技法を駆使して新たな表現方法や様式美を追求する姿勢は、個人作家として、ごく当たり前のように思われがちである。しかしそこには、先達たちが築き上げた伝統ある様式美とのぶつかり合いがあり、新たな美を鑑賞者に納得させるまでには自身の作品の完成度を高めていくしか方法はない。
伝統という言葉を盾に胡座をかいて従来の技法を墨守する作家が多い中で北岡さんは、 本来の意味での伝統という言葉を理解し、新たな美の創造を目指している作家の一人といえる。伝統とは継承ではなく、その時代、その作家ごとに新しい何かを見つけ出していく行為の継続であり、ある意味で革新でなければならないのである。
北岡さんの創作活動は、現代に生きる作家の真摯な姿であり、いつしかこの行為は、漆芸の盛んな地で新たな伝統の美を築き上げるに違いない。
平成25年2月 北岡省三漆芸展 図録より
東京展
会期:2013年2月20日(水)~26日(火)
会場:日本橋三越本店本館6階美術特選画廊
高松展
会期:2013年4月9日(火)~15日(月)
会場:高松三越本館5階美術画廊
作品
リンク先一覧
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2024.05.16