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日本伝統工芸展と自作解説

昨日、日本伝統工芸展(東京展)が無事に終了いたしました。ご来場いただいた皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
日本伝統工芸展の会場で自作解説をする菅野かおり

会場当番の日には、お客様の前で作品についてお話しする「自作解説」の機会をいただきました。 人前に立って話すことには慣れていないため、当日は緊張しつつメモを読み上げる形でお伝えさせていただきました。
会場にお越しいただけなかった方にも、作品に込めた想いや制作の背景をお伝えしたく、当日の原稿をこちらに掲載いたします。長文となりますが、作品の写真と合わせてお読みいただけたら嬉しいです。

自己紹介 菅野かおりと申します。 私は広島市出身で、香川県で7年間、漆芸の基礎や鮮やかな色漆の文化を学びました。その後、広島の実家に戻り、数年間は公募展やグループ展を中心に制作活動を行っておりました。 さらにその後、スペインのバルセロナの美術学校へ1年間留学し、ヨーロッパ各地の美術館で漆の作品を見て回るなど、視野を広げる経験をいたしました。
結婚を機に現在は東京に住んでおります。2011年からは3人の子育てで一時制作をお休みしていましたが、2024年の春から制作活動を再開いたしました。今年3月のアートフェア東京で展覧会に復帰し、現在は展覧会の出品作品を作る傍ら、身に着けられるアクセサリーも作り、私自身が運営するオンラインショップで発表しています。
漆という自然素材の美しさを大切にしながら、過去から未来へのつながりを感じていただけるような表現を目指しています。

作品の発想と全体デザイン 今回の入選作についてお話しさせていただきます。 この作品は、構想の段階で「まず、地球のような存在感を持つ球形の箱を作りたい」というフォルムのイメージが先にありました。その形と同時に、全体の色合いやデザインを決め、さらに表面を彩る彫漆(ちょうしつ)のデザインへと細部を深めていきました。

技法について:乾漆と彫漆 この作品には、大きく分けて二つの伝統技法を用いています。
一つ目が、本体の形を作る「乾漆(かんしつ)」という技法です。 乾漆は、粘土や石膏などで作った原型のうえに数枚の麻布を漆で貼り重ね、乾いた後に中の型を取り除いて器を作る技法です。木とは異なり、滑らかな曲面を作ることができるのが特徴で、私は普段この技法を使って素地を作っています。今回は球型のスチロールを一部削って原型を作りました。

二つ目が、天板の装飾に用いた「彫漆(ちょうしつ)」という技法です。 濃いブルーから白へ変化するグラデーションの層を約50回塗り重ねています。厚さにして約3ミリの漆の層を、刃物で精密に彫り進め、数種類の砥石で彫った部分を研ぐことで、柔らかな陰影と色の変化を生み出しています。私はこの彫漆の技法をメインに作品を作っています。一日1回しか塗り重ねが出来ないので、非常に制作日数がかかる技法です。
日本伝統工芸展に出品した乾漆と彫漆の箱作品「南洋の調べ」菅野かおり作

作品に込めた思い これらの技法を組み合わせて、南国の海の静かな水面に差し込む光の表情を立体的に表現しました。この箱を部屋に置いていただいた時に、その一角から南国の海の気配がふっと立ち上ってくるような、そんな存在感を持つ作品になればという思いで制作いたしました。
手作業ならではの立体感や、漆の層が生み出す豊かな表情を感じていただければ幸いです。
日本伝統工芸展の展示会場でマイクを持ち作品解説をする様子(菅野かおり)

以上が当日お話しした自作解説の内容です。
当日の様子を撮影してくれた元レポーターの友人、そして温かく耳を傾けてくださった皆様に、心より感謝申し上げます。
日本伝統工芸展(日本橋三越)で作品解説をする様子(菅野かおり)


会期初日には全国から作家の皆様が集まり、研究会や懇親会も開催されました。 いつもは自宅の工房にこもって一人静かに制作をしていますが、尊敬する先生方や先輩方と久しぶりにお会いでき、まるで年に一度のお祭りのような、刺激的で充実した日々でした。

東京展の後は、全国10都市を巡回いたします。 会場の都合により全作品が並ぶのは東京展のみとなりますが、私の作品は宮城、島根、香川、広島の4会場にて展示される予定です。お近くの巡回展にお越しの際は、ぜひお立ち寄りいただければ幸いです。
全国巡回展の詳細はこちら(展覧会公式サイト)よりご確認ください。

今年3月のアートフェア東京から始まり、7月の日本伝統工芸展の搬入まで、この1年間はこれまでにないほど怒涛の日々でした。
大きな山場を無事に越え、ようやくほっと一息ついたところです。
緊張感のある過密スケジュールからは一旦解放されましたが、次の展覧会に向けてしっかり制作していきたいと思います。
引き続き温かく見守っていただけましたら幸いです。



2026.9.16