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作業工程

 

 

彫漆

 

 

彫漆 塗り重ね

 

器物によって塗り重ねのパターンは違いますが、私の場合、概ね約50回、1日1回塗り重ねをします。

 

塗り重ねは、塗りと水研ぎの繰り返しです。

塗り重ねサイクル

1.塗り

2.空ムロ(湿っていないムロ)で乾固させる…10時間

3.湿ムロ(湿度65%)で乾固させる…4時間

4.表面が十分に乾固しているのを確認し、紙やすり(#600-#800)で水研ぎ

5.湿ムロ(湿度80%)で乾固させる…9時間

へ戻る (1から5で24時間)

このサイクルで作業できるよう、漆を配合します。

 

厚い箇所があったり、あまりに短時間で乾くと、表面だけシワシワに乾く「縮み」という現象が起こります。

縮んだ所は研いで無くし、また塗り直しです。1日が無駄になってしまう「縮み」は塗りの大敵です。

1回分の漆の層は0.03mmといわれていますが、その時の気候や、混ざっている顔料によって乾固速度が変わる為、その都度、塗りの厚みを調節する必要があります。勘だけが頼りです。

たまに失敗して縮んでしまいます。

塗重ね器物 左から;

盛器、水指、ぐい呑み×2、短冊箱

水研ぎ;耐水ペーパー#600にて

塗り重ねが終わると彫刻作業に入ります。もし、塗り重ねを1日怠ると、彫刻作業に入るのが24時間遅れます。締め切り前になると1時間でも多く時間が欲しくなり、その時になって、後悔したくないので、いくら体調が悪くても、出掛ける用事があっても、塗り重ねだけは毎日欠かさず行います。

縮み

(2006.4.11)

 

 

 

 

漆 ガビ取り

 

彫漆塗り重ねも終盤に入りました。

上塗りをする前に、器物からはみ出て、ガビガビに乾いた漆を取らなければいけません。

 

通常の塗りは、塗った時に器物からはみ出た余分な漆をヘラで取ります。すると、端の方が薄くなってしまいます。彫漆のように何10回も塗り重ねているうちに、その差が大きくなって、下の図のように端がダレてしまします。

 

 

このように完成してしまうと、作品の印象はしまりがありません。エッジの処理はとても大切で、これを雑に仕上げると全体の完成度が低く感じられます。

 

彫漆の場合は敢えて器物からはみ出して、塗り重ねをして、終盤に「ガビ取り」をします。上塗りより5回前位にするのが良いと思います。

 

ガビガビ部分にあたる言葉を先人は命名しなかったようで、今のところ、これを取る作業は「ガビ取り」という名で伝承されています。上手く写真が撮れなかったのですが、実際にガビガビ部分は、すごいガビガビでボコボコです。他に良い言葉は当てはまらないかもしれません。

 

「ガビ取り」のような些細な工程の一つ一つが、大切な技術の伝承なのかもしれません。   

(2006.4.19)

 

 

 

彫漆 彫刻刀

 

塗り重ねが終わると、彫りに入ります。

数ヶ月かけて塗り重ねた層を彫るにあたり、失敗は許されません。

 

彫漆技術は彫刻刀による部分が最も大きいと思います。切れ味が悪い彫刻刀は自在に操れないので、失敗の元です。全ての彫刻刀がきちんと研げると実感できるまで5年かかりました。

面倒なようでも、少しでも切れ味が落ちたら、研ぎ直す方が結果的には早く安全です。ちなみに右の作品を仕上げるのに丸刀は100回以上研ぎました。

 

彫刻刀の後にいくつか工程があるので、少し残し気味でやめておきます。

しかし、残し過ぎると後の工程で負担になります。

 

彫刻刀は刃の部分だけを買って、自分で柄をつけます。漆芸研究所の1年生の時に購入し、柄をつけました。よく覚えていませんが、1本5千円位で、彫刻刀としては最高級のものだったと思います。

私は全種類、全サイズを揃えているわけではありませんが、今のところ、彫刻刀に関しては今の道具で満足しています。

 

市販の彫刻刀でも漆を彫る事は出来ますが、すぐに切れ味が落ちるので、頻繁に研がなければいけません。しかし、初心者の方は市販のもので十分だと思います。

彫り

粗彫り

彫刻刀

(2006.6.11)

 

 

 

彫漆 きさげ

 

彫刻刀で彫った後は、きさげで表面を削り、出来るだけ凹凸を無くします。

 

彫った曲面に合わせて、刃先のカーブが異なった数種類のきさげを使い分けます。

きさげも彫刻刀と同様に、切れ味が落ちるとすぐに研がなければいけません。

きさげ工程を綺麗に仕上げると、次の研ぎ工程がかなり楽になります。

 

きさげは彫刻刀より研ぎは簡単です。

肘と手首の角度を固定して、きさげは60度、彫刻刀は30度位の角度で研ぎます。

きちんと研げている時は、刃が砥石の上で安定し、刃全体が研げている手応えがあります。

そうなると、少し研ぐだけで、よく切れます。

彫り

きさげ後

彫刻刀

(2006.6.18)

 

彫漆 研ぎ

 

彫り工程が済むと、一番大変な研ぎ工程です。

3種類の砥石で、順に研ぎつけます。

#800・・・三和(写真2番目)

#1200位・・・炭

#2000・・・クリスタル

砥石は写真のように色んな形のものを作って、どんな小さい所でも研ぎつけます。

小さく細いものは、すぐに減ったり折れたりして、砥石を整えるのにも手間がかかります。

研ぎが甘いと、仕上げて艶をつけた時に小さな傷が目立ちます。

研ぎ工程が済むと、研磨剤などで磨いて終了です。

 

彫漆は、塗り重ね、彫り、研ぎ、仕上げと、とにかく手間がかかりますが、他の技法にはない「立体表現」の魅力があります。

もともとは中国が発祥の地で、宋時代から宮廷で特に尊重愛好されていたようです。昔は単色での彫漆(堆黒ついこく、堆朱ついしゅ など)だけでした。

 

今、私達が作っているような彫漆は、戦後、顔料が発達してから、日本独自に発展したもので、歴史は浅く、まだ様々な可能性が秘められているように感じます。

彫漆研ぎ

砥石

完成表面⇒

(2006.8.19)