2006年 1月→ 3月

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漆 植樹

 

広島市立大学の漆造形の学生達と漆の木を植えに戸河内まで行ってきました。

4月から市立大学にアシスタント(TA)で行くので、記念すべき第1回漆植樹に私も同行しました。

 

植樹自体は難しいものではありません。

ただ、より効率良く漆を採取しようとすると、土地選びや、枝打ちなど、その後の手入れも必要となります。水はけの良い斜面は重要な条件のひとつです。

 

植樹して、漆が採れるまで、6〜7年かかるといわれています。6月中旬から10月末にかけて、1本の木から年間約200ccしか採れません。

 

これからも、広島に漆の植樹をしてゆく予定のようです。

同じ苗木でも、植える土地によって、漆の特性が異なってくるので、今回の苗木がどのような木に成長していくのか楽しみです。

広島県産の漆の研究と採取が、今後の課題となります。

(2006.3.24)

 

 

 

 

下地 プラ板

 

下地作業も終盤に入ってきました。

今日は身の合口(蓋が合わさる部分)に、ペースト状の下地をつけました。

広い面は、ヘラで下地をつけて、乾燥した後、砥石で均一に研ぎつけますが、合口の様に狭い面は、プラ板が有効です。

その場合、ほとんど研がなくても、正確で均一な面が仕上がります。(師匠より伝授)

合口は重要な箇所で、ここが均一の高さになっていないと、蓋をかぶせた時にピッタリ合わず、蓋と身の間にわずかな隙間を作ってしまいます。

底面はガラス板の広い面を使って、すり合わせて必ず平らにします。

 

 

 ↑砥の粉錆

 (キメの最も細かい土に、水と漆を混ぜたもの)

 

 ←他の器物 プラ板使用例

下地の段階で少しでも凹凸があると、漆を塗り、艶が出た後、その凹凸はかなり目立ちます。

何度か漆を塗った後に、凹凸に気付いて研ぎ直すと、部分的に下地が出てしまい、また初めから塗り直す事になります。「下地作業は10年やって一人前」と言われていただけあって、本当に難しいです。

(2006.3.21)

 

乾漆(かんしつ) 05

 

今日、乾漆を石膏型から外す事が出来ました。

 

半日ほど水に漬けておくと、石膏の表面に塗っておいた白玉粉糊が溶けて、盆(左)のような形のものは簡単に外れます。この場合、また同じ石膏型で乾漆を作る事が出来ます。

下の水指や短冊箱のようなもは、石膏型を壊すより他ありません。

石膏型から外すと器物が軽くなって、作業しやすくなります。内側の手直しが済むと、ようやく漆の塗り重ねが始まります。

水指

短冊箱 

(2006.3.17)

 

 

 

 

乾漆(かんしつ) 04

 

乾漆素地にそれぞれ足をつけました。

 

左の短冊箱は合板で、右の盛器の方は乾漆で作っていたものを接着しました。

器物の形はこれで完成で、後は下地作業を進め、

石膏型から離すと、乾漆素地は出来上がりです。

左;短冊箱の身、右;盛器

 

合板(=ベニア板)に、あまり良いイメージを持たない方もいますが、木が反ったりしないという良い点もあります。香川県在住の重要無形文化財の磯井先生は、合板を重ねたものを刳り、素地とする技法(積層)を考案した事で有名です。先生の作品の大半はこの積層素地です。

私は香合などの小物はたまに積層素地もしますが、今回のように乾漆の足など部分的に取り入れる事がほとんどです。

(2006.3.2)

 

 

鳳凰蒔絵箱

 

「家にある箱に鳳凰の蒔絵をして下さい。」と頼まれました。

それは少し古いようでしたが、腕の良い職人が作ったとすぐに分かる代物でした。「このままでも十分素敵」と思ってしまいました。

お客さんのイメージする鳳凰の画をメールしてもらうと、それを蒔絵用にアレンジし、下絵のOKをもらって作業に移りました。

古典的なモチーフなので、あまり古臭い感じにならないよう気を付けました。

背景に雲文様や唐草文様などを配さなかったのはその為です。

その代わり、全面に粗い金粉を蒔きつけました。

鳳凰蒔絵箱

展示していたものを買っていただく場合は、ほとんど心配ないのですが、「こんな感じのものを作って」とか「何でも良いから作って」と言われた時は、嬉しい反面、かなりプレッシャーで色々と緊張します。「本当に気に入ってくれたのか?」後々まで心配です。

実は、今まで買って頂いたもののほとんどがこのパターンです。

ありがたい事にあと1つ蒔絵の大作(今回の10倍位のもの)を頼まれています。図案はほとんど出来たので、今度お客さんに見てもらい、一気に仕上げるつもりです。

終わると肩の荷はおりますが、「気に入ってくれたか?」心配の種はまたひつと増える事になります。

(2006.2.23)

 

 

 

乾漆(かんしつ) 03

 

乾漆布張り作業になりました。

 白玉粉を炊いた糊と漆を合わせて糊漆を作ります。糊漆に"輪島地の粉"を少し混ぜて、器物に麻布を張っていきます。

 糊漆は乾燥が早く、6時間もあれば乾いてしまいますが、芯まできちんと乾かしたいので、1日1工程と決めています。

翌日、余分な布を切り落として、布目の間に糊漆と地の粉を擦りみ、出来るだけフラットな面を作ります(「布目擦り」)、更にその翌日に次の布を張るといった具合で5〜7枚の布を張ります。

この布が木の代わりの素地になります。

 

麻は繊維の芯まで漆が浸透せず、これがかえって頑丈な素地になるとの事です。割れるという事はまずありません。

 

白玉粉糊と生漆

 

 

布張り後

乾漆の良い所は、自由な形が気軽に作れる所と、木地よりも耐久性に優れている所です。

しかし、木地より若干重く、厚みも大体均一になってしまいます。

私は木地を使う事もありますが、最近は乾漆が多くなっています。

圧倒的に手間がかかり大変ですが、乾漆の方が素地としてそれなりの価値があるので、出来るだけ乾漆のものを作りたいと思っています。

(2006.2.16)

 

 

 蓋の取っ手

 

制作中の水指「山帰来」もほとんど仕上がってきました。

黒漆を100回以上塗り重ねた層を、水指の蓋の取っ手に加工しました。

形を整えて、指になじむよう中心部を削りました。

輪郭などの曲線は、水指を上から見た時の形に合わせてデザインしました。水指の文様が具象的なので、取っ手はシンプルにする事にしました。

予定では、更に中心部分を山帰来の実をイメージし、円(○)でくり抜くつもりでした。

取っ手 磨き途中 

しかし、右写真の時点で水指に合わせてみたところ、全体的に良いバランスだったので、○でくり抜く事はやめて、このまま取っ手を磨き、仕上がり次第、蓋に接着します。いつも迷った時は、シンプルな方、言い換えれば無難な方を選んでしまいます。

今回の作品は他の部分(加飾面)では迷いは一切なく、一気に仕上げる事が出来ました。

これは彫漆という技法が、"一度彫ってしまったものは修正が効かず、最初のデザインを変更出来ない"という特徴に起因します。

それに引きかえ、蒟醤という技法は様子を見ながら作業を進める事が出来ます。

私はいつも蒟醤となると、迷いばかりが生じて、結局仕上がってみると最初のデザインと違った雰囲気のものになっている事がしばしばあります。

自分の作品は蒟醤より彫漆のものの方が満足のゆく場合が多いのですが、展覧会の結果は自分の思いとは裏腹だったりします。結果はともかく、まずは自分が納得のいくものを作りたいと思っています。

展覧会出品作は未発表のものに限るので、水指の完成写真は展覧会が始まってからアップします。

(2006.2.12)

 

 

 

彫りスタート

 

昨日から彫漆を彫り始めました。

まず、蒟醤の地文様を仕込んでおいて、その上に白と黒など25回位塗り重ねました。

真っ黒な塗面に文様の下絵を描いて、第一刀を入れます。

一番深く彫り下げる層の手前に目印として黒漆を塗っておきました。その黒漆を目指して慎重に彫り下げていきます。1回分の漆の層は約0.03mmなので、彫りにくい部分はかなり手前の層で止めておいて、砥石で研ぎながら、目的の層まで下げていきます。

 

彫り進めるほどに、イメージしていたものが、形になっていきます。この作業があまりにも楽しくて、今日は他の仕事を全て放棄して、一日中彫っていました。この後は研ぎ、磨きの作業になります。

それはあまり好きな作業ではありません。

 

作品が完成に近づいてくると、楽しさよりも反省すべき点が目につき始め、「もう早く仕上げてしまって、この作品から開放されたい」という気持ちになってきます。

最後まで楽しく作業出来た作品は、今までたったの2点だけです。

ちなみ写真の作品は水指で、モチーフは山帰来です。

(2006.2.2)

彫り途中

部分拡大

 

 

 

 

 

乾漆(かんしつ) 02

 

直方体だった石膏を鉋と耐水ペーパーで削り、自由な形に成形しました(手前3個)。

アクリル板で型を作り、それを定規代わりにして、誤差のないよう、製図に忠実に仕上げます。

 

漆の仕事は特に「次の工程で修正しよう」という考えが通用しません。その場凌ぎ的な対処をすると、後で必ず影響します。

この一番初めの原形作りは特に重要なので、削り出しの作業に2日間を費やし、丁寧に仕上げました。

 

経験を積むほどに、一つ一つの工程をきちんと仕上げるように心掛けるようになります。

作業によっては面倒に感じる時もありますが、何百年も受け継がれた伝統技法に無駄は無く、省略できる工程はないと痛感する事もしばしば。

 

成形が終わると、白玉粉の糊を石膏表面に数回に分けて塗り、最初の工程である砥の粉錆(最もキメの細かい下地)をつけました。

後は単調な作業が当分続くので、作業としては軌道に乗ったと言えます。

成型が終わった石膏型

砥の粉錆を付けた石膏型

 (2006.1.29)

 

 

 

 

 

第52回 日本伝統工芸展 広島会場

 

今日は9:45から会場で日本伝統工芸展の開会式がありました。

北岡先生も来られ、香川は開会式も無いらしく、広島の展覧会への力の入れように少し驚かれ、感心されていました。

 

毎年会場は広島県立美術館なのですが、去年今年と連続デパートでの展示となり、展示可能な作品数が減り、私としては非常に残念でした。来年からまた美術館だと聞いています。

 

 

    

    彫漆蒟醤箱「水無月の頃」

素地は乾漆です。

はじめに黒漆を30回塗り重ね、斜線を彫刻し、雨を表現しました。写真では分かりにくと思います。

その後、額紫陽花と背景の雨粒を蒟醤という技法で表現しました。この、彫漆と蒟醤を組み合わせる技法は、去年も試みていたので、作業はスムーズでした。

最後に紫陽花の輪郭と、中心の雄しべ部分に沈金を施しました。輪郭などの点彫りは音丸流沈金、雄しべの線彫りは輪島の沈金ノミで彫りました。

輪島へは3年前の冬に香川県国内研修員として、単身1週間滞在し、道上 正司先生と、西 勝廣先生に沈金を教わりました。やっと今年、その成果を作品に活かす事が出来て、嬉しく思っています。

 額紫陽花の雄しべが開いたところがとても可愛らしいので、雨に濡れそぼった額紫陽花をモチーフに制作したい、と1年以上前から考えていました。

 

金城一国斎さん(左)、北岡省三先生(右)と 

 久しぶりに北岡先生とゆっくりお話する事が出来ました。

先生は来年1月の日本橋三越での個展に向け、精力的に制作に取り組んでおられます。

作家としてひたむきな姿に、私も背筋がしゃきっと伸びるような緊張感を覚えました。

 

先生を前にすると、作品を通じて私の考えは全て見通されているような、何ともいえない気恥ずかしさを感じずにはいられません。やはり師匠というのは特別な存在です。

(2006.1.25)

 

 

 

 

 

乾漆(かんしつ) 01

 

今日は乾漆の原形を石膏で成型しました。年に1回、向こう1年分の乾漆素地を作ってしまいます。

滅多にない作業なので、記録しておこうと思います。

水指(お茶道具)の原形 径16.5×高さ17cm

 

円柱のものはプラ板でひき型を作り、成型します。

 

四角形のものは木枠に石膏を流しこみ、完全に乾いてから(2〜3日後)、曲線を成型します。

木枠は釘で止めてありますが、組み立ては一人では意外に難しい作業です。

たまたま父親が居なかったら作業はかなり難航していたかもしれません。

 

 

木枠はガラス面などに接する面は鉋とペーパーで直角を出しておかないと石膏が流出してしまいます。

盛器の原形 横63×縦19cm

 

短冊箱(蓋)の原形 横40×縦11×高さ8cm

 

木枠から外したもの

水指と盛器、短冊箱の蓋と身を各1つずつ石膏を流しこんで、今日はおしまい。

明日もう1つ流しこんで、汚れたガレージを大掃除して終了です。 石膏作業の時に一番気をつけなればいけない事は、石膏を水道で洗い流さない事。

いつか下水管が詰まって、大変な工事になるらしい。 

 

石膏を溶いた容器や汚れた手はバケツの汲み置きした水の中で洗い、沈殿させて固形のゴミとして処分します。

(2006.1.12)

 

 

 

 

創手人(つくりてびと)染展 

 

松本先生の奥さんが指導にあたられている「創手人染展」を見に、広島県立美術館へ行ってきました。

染色家である奥さんの井上三津子さんにはいつもデザインのお話などをしていただきます。説明が理論的で分かり易いため、大変勉強になります。

 

「いつも偉そうな事言ってるけど、私の作品を見たら、なんや〜。て思うかもしれん」と前置きされて、展覧会の案内状を手渡して下さいました。教室のグループ展と聞いていましたが、私の予想をはるかに上回るレベルの高い展覧会でした。

奥さんの黒地に滝の水勢を白く染めた巨大なインスタレーションは圧巻でした。

(2006.1.6)

 

 

 

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