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乾漆Kanshitsu

麻布や和紙を漆で固めた素地で、自由な表現を可能にします。

 中国から伝わった技法で、中国では「夾紵」(きょうちょ)あるいは「ソク(土偏に「塞」)」と呼ばれ、日本では7世紀末から8世紀にかけて仏像の制作に多用されました。
 仏像の場合は、木芯が多いですが、漆器の場合は石膏などで型を作り、その石膏に麻布を漆で数枚貼り重ねて乾固させ、石膏型から外すと厚さ2~3mmの素地になります。

解説

乾漆の長所
 ・どんな形状の物でも自由に作れる
 ・木のように収縮しない、狂いが少ない
 ・丈夫で耐用年数が長い

 麻布は糸の芯まで、漆が染み込まず、麻布の繊維が残る事によって麻布製の乾漆をより堅牢な素地にします。落しても割れる事はほとんどなく、錆より外側が欠けるだけで済みます。

乾漆の短所
 ・手間と時間がかかる
 ・漆を多く使うのでコストが高くなる
 ・木より重くなる場合が多い

 自由な発想を形に変える事が可能な技法ですが、細部の処理が形状によって様々で、新しい工夫が必要になる場面が多々あります。盛器や箱は脚や高台を木で作成して、取り付けます
 厚みが均一になる為、厚くしたい部分だけ布を多く貼ったり、木の芯を入れます。また、箱は蓋と身がきちんと合う必要があり、高度な技術が必要になります。
 例えば、箱の場合は下のようなポイントがいくつかあります。

身の方に蓋を受ける部分(水色部分)と高台(ピンク部分)を木で作って取り付けます。

1.薄くして角を丸める。
2.蓋との隙間が約1㎜開くように計算して制作する。
3.布を多く貼って、少し厚くする。
4.蓋を受ける部分を木で制作して接着する。
5.高台を木で制作して接着した後、4.と一緒に外側を削って整える。


制作工程

完成した器の形状。

1.製図を引く。
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真上から見た形と、横からみた形のラインを描く。
2.プラスチック板で引き型を作る。
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真上から見た口縁が底の丸、真横から見た曲線が引き板。
小さい器物は厚さ1mm、大きめの器物は厚さ2mmのプラスチック板を使う。
底部の中央に垂直の棒を立て、側面の引き板には木板を付けて、安定させる。

3.石膏で成型する。
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回転台の上に大きいガラス板を載せ、その上で作業する。
石膏の厚みは2~3cmになるように、内部に粘土やスタイロフォームを置く。
石膏は水道で洗い流さないよう注意する。
引き型で成型出来ない形は、石膏を鉋や彫刻刀で削り、サンドペーパーで整える。
4.乾燥させる。
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乾固後、内側の粘土またはスタイロフォームを取り除く。
5.石膏型に離型剤を塗る(2~3回)
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白玉粉に水を足して煮た物に絵具を少し入れる。(色をつけると、厚みが均一になっているか分かりやすい為)
石膏の内側の空いた空間に、石膏型を載せられる物を置く(イラストのベージュ部分)。

6.地の粉錆、砥の粉錆の順に各2回ずつ付ける。
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乾漆の工程は、塗り用の刷毛は使わず、乾漆刷毛(馬毛)を使う。無い場合はヘラを使う。
均一の厚みになるよう木を当てたサンドペーパーで、適宜、乾研ぎする。

7.目が細かい布(寒冷紗#100~#110)を器物より4~5cmはみ出す大きさに切る。

8.7.の布を貼る
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白玉粉のり+生漆+輪島地の粉を混ぜ併せて糊とする。
下部分(口縁)にはみ出した布を約1cm、石膏に貼り付ける。(以降は、はみ出した布は石膏に貼り付けず、カットする)
乾いた後、重なった部分の布を印刀でカットする。
9.目摺り
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白玉粉のり+生漆+輪島地の粉(布を貼る時よりやや多め)を併せて布目の凹部にヘラで摺り込み、乾いた後、サンドペーパーで乾研ぎする。

10.目が粗い麻布(#25~#80)を7.~9.と同様に3~5枚を貼り付ける。
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下部分(口縁)に布をはみ出させない。
底部など厚みが欲しい部分のみ1~2枚多く布を貼る。
脚や畳付きを付ける場合は、最後の粗い麻布を貼った後、接着する。

11.7.~9.と同様に目が細かい布(寒冷紗#100~#110)を1枚貼る。

12.地の粉錆、砥の粉錆の順に各2回ずつ付ける。
13.砥石で水研ぎ後、生漆で固め、乾固後に黒呂色漆で1回下塗りする。

14.ガビ取り
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下部分(口縁)より下に出た余分な布や錆を彫刻刀で削る。
その後、平らな大きな面のサンドペーパーの上で下部分を石膏が出てくるまで擦って削る。
布や錆が出た部分は生漆を数回塗り、錆を付け、16.の工程の為にしっかり防水する。
15.乾燥(乾固)
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香川県研究所では乾漆と下地部分をしっかり乾固させる為、100~130度くらいの温度でオーブンで3日間焼きました。(段階的に温度を上げる)
内部がしっかり乾固していないと、石膏型から外した後、器物の形が狂う事があります。オーブンが使えない場合は、そのリスクを軽減させる為、一回一回の作業でしっかりと乾固させます。
漆の焼き付けに関する詳しい資料は「伝統的焼付漆技法の研究」[1](東京文化財研究所)を参照してください。ただし、乾漆の考察ではありません。

16.数時間水に漬けた後、石膏型を抜く。
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盛器や皿などの場合は離型剤のお陰で力を加えるだけで外れ、石膏型は再利用できる。箱などはノミと金槌や彫刻刀を使って、石膏を割る。

17.器物の内側を砥石で水研ぎし、場合によっては砥の粉錆を繕う。
18.口縁を薄くしたい場合は、サンドペーパーで削り、厚みを調整する。布が出た部分は錆で繕う。
19.全体的に塗りの工程を進めて仕上げる。
POINT

錆を厚くすると、器物が重くなったり、欠けやすくなるので、なるべく均一な厚みで薄くするよう心掛けて、各工程を進めます。

鉋で削り出す前の石膏を乾かしているところ

「髹漆技術記録」(文化遺産オンライン)で、人間国宝の増村益城先生による制作工程見本をご覧いただけます。


参考資料

1. 木下 稔夫, 上野 博志, 中里 壽克, 宮田 聖子 「 伝統的焼付漆技法の研究」 1998年, 東京文化財研究所 (PDFファイル)
2. 画像ギャラリー「増村紀一郎(重要無形文化財「髹漆」の保持者)の作品」(日本工芸会)


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2024.05.02